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科学に欠かせない「重役」,統計学者のアドバイス 統計学は科学のどの領域においても,欠かすことのできない重役のような存在です。 実際に,有力な医学雑誌には,必ず1人の統計学者が編集委員となっています。そうした学術雑誌に投稿した論文が,統計学的に十分でなくては編集委員にネガティブな印象を与えることでしょう。 今回は,多くの研究に欠かせない統計学から,論文の執筆に関連する事柄を2点紹介します。 1つは,統計学用語の誤用について,もう1つは統計手法を書く 際の考え方についてです。 significance,variable,parameter……安易に使っていませんか? おそらく皆さんは「デオキシリボ核酸(DNA)」が生命科学における専門用語とご存じでしょう。 しかし,DNAと いう単語は本来の専門用語としての範疇を超えて,抽象的な意味を持つ単語として用いられることもあります。 新聞記事などではよく「企業のDNA」,「科学者のDNA」などという表現を見かけます。 例: http://www.hondatrading-jp.com/business/living.shtml http://www.layers.co.jp/company/message_03.shtml 一般社会では「私の企業と,あの企業のDNAは一緒だ」という表現は成り立つのかもしれませんが,科学的には当然,誤りです。 科学論文における専門用語の誤用について,統計学者らはたびたび警告しています。significance,variable,robust,gross,likelihood,level,factor,sample,random,parameter...一見すると普通の単語として使えそうなものですが,これらは統計学の理論とその応用やそれに基づいた解釈において重要な役割を果たします。 例えば,significanceという単語は,結果の有意性の有無を示する単語ですが,そういった科学的な有意性という意味ではなく,著者の任意の解釈としてこの単語を用いることは問題と なるのです。 さらに,significanceは確率に基づいて用いられるため,その誤用は,著者の科学的検証の理解に関して懐疑の種をまくこととなります。 科学英語で用いる英単語としては,非常に侮れない単語なのです。 Parameterという単語はさまざまな分野で非統計学的に使われているようでDr. Goodmanは次の論文でその事実を紹介しています。 N. W. Goodman, Paradigm, parameter, paralysis of mind BMJ 1993; 307: 1627-16293) 例えば,この論文で挙げられているparameterのあいまいな使用例は, 変数(variable)としての意味 指標(measure, index)としての意味 測定対象の種類(types)としての意味 実際に見かける論文を参考に簡単な例を挙げるとparameters of the phenomenum,to analyze the economic parametersなどと書いてみると,それらしく読めます。 しかし,実態としては何かわからないということです。 この例ですと,measurable characteristics of the phenomenum,to analyze the economic variablesと書いたほうがよいと言えるのです。 parameterというのは,データの分布・形状・確率を示す量的な因子を意味します。 平均や標準偏差といった基本的な統計用語の出てくる科学論文において,parameter という単語を用いるは紛らわしいというわけです。 皆さんは,Method SectionにGross Analysisと いう表記があったら何を思い浮かべますか? 経済学と解剖学においてありうる話ですが,全く意味が違います。 このように,各分野において見慣れた単語にも専門性が潜んでいるものなのです。 統計学は量的な研究にはなんらかの形で貢献しているので,統計学用語が筆者の意図しない意味で使用され,誤解を生むことが あり得るのです。 論文を書く際にはもちろん,目を通す段階から,気を付けていたいものです。 統計学者による科学論文の考察に関する2点目は,統計学の方法と科学論文との関係についてです。統計学の教育について論じている次の論文を参考にしました。 G. Samsa, E. Z. Oddone, Integrating Scientific Writing Into a Statistics Curriculum: A Course in Statistically Based Scientific Writing Ame Stat, 1994; 48: 117-119 試験の前提,仮説,統計解析,結果の証明,すべてのリンクを認識すべき 近年,生命科学の分野では,統計手法が的確に用いられていないことが問題となっています。 例えば,Nature Medicineでは,ある期間に公に出た論文の約30%のP値が誤りであったと報告されています。 そうした過ちについてこうした指摘が出されていることからもわかるように年々,統計手法に関するReviewの目は厳しくなっています。 正しい統計を用いるのはもちろんのこと,Method Sectionにおいて,仮説に対して的確な統計方法を採用していることを示さなくてはなりません。 Samsa氏は,ある統計手法を用いる際に何を検討しているのか,さらにその統計方法を選択した条件(前提)を明示することを勧めています。 さらにMethod Sectionを越えて,もともとの仮説を試験するにその統計方法が妥当であることを明示し,結果の解釈では,仮説と統計解析方法と結果との関係を示すことを勧めています。 一般的に科学論文では,Method Sectionにおいて,なぜその方法を採用したのか論じることが求められています。 Samsa氏の勧めていることの1つはまさにそれなのですが,さらに 1.元々の仮説を試験するのにその検定が適当か 2.研究のデザインと検定との相性は妥当か 3.検定の結果がその仮説の試験と証明とが的確に関係しているか を明確にするように求めています。 つまりは,統計方法をイントロダクションから結果とその解釈まで,『リンク』させることを勧めているのです。 この『リンク』についてよく私がよく思い起こすことは,相乗効果という概念です。 例えば,AとBという2つの薬があり,薬の効果を測るためのCという因子について,動物実験を行ったとします。 そして,次のような結果が得られたとします。 Ⅰ群:AもBも投与しなかったとき,Cの値の変化=±0 Ⅱ群:Aだけ投与したとき,Cの値の変化=+5 Ⅲ群:Bだけ投与したとき,Cの値の変化=+5 Ⅳ群:AとBと同時に投与したとき,Cの値の変化=+20 このとき,Ⅰ~Ⅲとの間では有意な差はなく,ⅣについてはⅠ~Ⅲとの差が有意だったとします。 このとき,「AとBとの薬には相乗効果がある」という結論を出せるでしょうか? 答は「出せません」です。 相乗効果とは,ここでは,Ⅳ群で得られた効果が,Ⅱ群とⅢ群を組み合わせた効果(期待されるのはCの値の変化=5+5=10)を上回ることを示します。 したがって,単純な2つの群の比較では検証できません。 こうした検証で仮説,統計方法,解釈の『リンク』が破綻します。 しかし,膨大,かつ複雑な実験・解析のなかで,こうした破綻は埋もれてしまいがち,あるいは無視されがちです。 ふだん目にする研究論文において,統計方法だけ詳細に欠け孤立しているような論文はありませんでしょうか。 Samsa氏はその統計手法を盛り込んだ,導入から結論までのつながりを強調しています。 ぜひそのつながりを念頭に,論文に目を通してみてください。 これで,科学英語と科学論文に関するコラムはおしまいです。 科学英語と いうと,非英語圏の研究者の問題があるように考えられるかもしれませんが,そうではありません。 英語力があれば書ける,あるいは読めるものではありません。 さらに,英語力以外の 論理構成で質を向上させることができるとも言えます。 物理学者,分析哲学者を筆頭に科学論文自体を研究している人の議論は,いろいろな視点を与えてくれます。 出典 MT pro 2010.7.9 版権 メディカル・トリビューン社 <一部内容を追加しました> 前兆のある偏頭痛と死亡リスク http://wellfrog4.exblog.jp/15033585/ 他にもブログがあります。 ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy (一般の方または患者さん向き) 葦の髄から循環器の世界をのぞく http://blog.m3.com/reed/ (循環器科関係の専門的な内容) 「葦の髄」メモ帖 http://yaplog.jp/hurst/ (「葦の髄から循環器の世界をのぞく」のイラスト版) 井蛙内科/開業医診療録(3)http://wellfrog3.exblog.jp/ 井蛙内科/開業医診療録(2) http://wellfrog2.exblog.jp/ 井蛙内科開業医/診療録 http://wellfrog.exblog.jp/ 「井蛙」内科メモ帖 http://wellfrog.exblog.jp/ (内科関係の専門的な内容)
by wellfrog4
| 2010-10-30 00:39
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