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SpO2測定に落とし穴 呼吸状態の簡便な指標としてルーチンに測定されているSpO2。 だが呼吸困難があっても低値を示すとは限らず、逆に末梢循環不全や体動など、指先の状態によっては異常がなくても低値を示すこともある。 「小型軽量で安価なパルスオキシメーターの登場によって、低酸素血症の有無を簡便に調べられるようになった。だが一方で、測定原理や適応を知らないまま誤った使い方をしていたり、測定値を過信している医師も少なくない」。 北大大学院保健科学研究院教授の宮本顕二氏は、こう注意を促す。 パルスオキシメーターは、指先や耳たぶにプローブを装着して、呼吸状態の1つの指標である経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)を測定する器具(図1)。 採血時の有害事象リスクが高い動脈血液ガス分析に代わり、近年、急速に普及した。 個人差はあるが、SpO2の基準値は96~99%とされる。 90%以下の低値を示したり、平常時の値から3~4%以上の大幅な低下を認めた場合に、低酸素血症を起こしていると見なされる。 喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの鑑別、睡眠時無呼吸症候群のスクリーニングのほか、バイタルサインの一つとしても日常的に測定されている。 安易な評価で疾患の見逃しも しかし、低酸素状態であっても、SpO2が低値を示さないことがある。 「喫煙直後や一酸化炭素中毒の患者では、パルスオキシメーターで測定されたSpO2は、真の動脈血酸素飽和度(SaO2)よりも高くなる」と東京医大八王子医療センター呼吸器内科教授の一和多俊男氏は話す。 通常のパルスオキシメーターでは、酸化ヘモグロビンと一酸化炭素ヘモグロビンとを区別できないためだ。 また、貧血の患者では、酸素を運搬するヘモグロビン自体が不足しているため、低酸素状態でもSpO2が正常値を示す恐れがある。 SpO2は、息切れや呼吸困難の初期診断にもよく使われる。 ただし、呼吸困難の原因は低酸素血症とは限らないため、患者が強い自覚症状を訴えていても、SpO2が正常値を示す場合もある。 「よく陥りがちなピットフォールは、呼吸困難を呈していても、SpO2が正常値を示せば“問題なし”と判断してしまうこと。あくまでSpO2は診断の1つの目安なので、臨床症状や呼吸数、その他の検査所見と組み合わせて、総合的に鑑別疾患を絞り込む必要がある」。 こう指摘するのは、東京都立多摩総合医療センター救急科部長・救命救急センター長の樫山鉄矢氏。 同氏が経験したのは、次のような症例だった。 27歳の女性が、前夜から続く呼吸困難と手足の痺れの増悪を訴えて同院に救急搬送された。 来院時は意識清明、呼吸数30回/分で深く速い。 身体所見は体温36.1℃、脈拍104回/分、血圧128/72mmHg。SpO2は100%だった。 呼吸が速く、SpO2が正常だったことから、救急隊が疑ったのは過換気症候群。 だが、同院で静脈血液ガス分析を行った結果、pH 7.27、PO2 108mmHg、PCO2 26mmHg、HCO3- 12mEq/L、Na 142mEq/L、Cl 102mEq/Lで、代謝性アシドーシスを来していることが判明。 血糖525mg/dL、尿中ケトンも陽性だったため、ケトアシドーシスを契機に発症した1型糖尿病と診断された。 一方で、呼吸状態に異常はなくても、SpO2が低値を示すこともある(表1)。 例えば、末梢循環不全を来している場合。 極度の低血圧、強皮症などの膠原病、低体温などによって、測定部位の指先に血流障害があると、パルスオキシメーターで拍動を検出できず、SpO2が真のSaO2よりも低くなることがある。 寒い屋外にいて患者の指先が冷え切っているときは、マッサージなどで指を温めたり、血流が良好な他の指で試すといい。 血流障害や体動でも低値に 激しい体動や震えがある場合も同様。 振動が加わると、パルスオキシメーターは動脈と静脈を区別しにくくなるためだ。 COPDの患者増加に伴い、最近は運動負荷試験がよく行われるようになったが、運動前後のSpO2の変化を見るときは、運動中に測定するのではなく、運動を終えた直後のSpO2を測定する。 一般にパルスオキシメーターは数秒間ごとの拍動を基に平均値を算出することから、装着直後の値ではなく、20~30秒程度置いてから値を読み取るようにしたい。 この他、強い太陽光の下で測定したり、爪に濃いマニキュアを塗っている場合も、透過光の検出が影響を受け、正しく測定できないことがある。 また、亜硝酸製剤の内服やアニリン中毒などによって血中のメトヘモグロビンが増加していたり、インドシアニングリーンやメチレンブルーなどの血管内色素を注入されている患者でも、パルスオキシメーターによるSpO2の測定値の信頼性は低くなる。 パルスオキシメーターに表示された数値にとらわれ、誤った診断をしないよう、測定原理や特性を理解した上で正しく活用したい。 出典 NM online 2011.3.29(一部改変) 版権 日経BP社 読んでいただいて有り難うございます。 コメントをお待ちしています。 他にもブログがあります。 ふくろう医者の診察室 http://blogs.yahoo.co.jp/ewsnoopy (一般の方または患者さん向き) 葦の髄から循環器の世界をのぞく http://blog.m3.com/reed/ (循環器科関係の専門的な内容) 「葦の髄」メモ帖 http://yaplog.jp/hurst/ (「葦の髄から循環器の世界をのぞく」のイラスト版) 井蛙内科/開業医診療録(3)http://wellfrog3.exblog.jp/ 井蛙内科/開業医診療録(2) http://wellfrog2.exblog.jp/ 井蛙内科開業医/診療録 http://wellfrog.exblog.jp/
by wellfrog4
| 2012-05-26 00:49
| 呼吸器科
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