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#低血糖や体重増加を招かない治療戦略が必要 ■CCORDなどの試験がネガティブに終わった原因についてですが、いずれの試験でも,重症低血糖の発現が多かったことが大きいと思います(図4)。 なかでも,ACCORDの発症率が特に高率でした。 同試験では強化療法群の死亡率が従来療法群に比して有意に高かったため,3年半で打ち切りになったことは皆さんよくご存じの通りです。 また,体重管理が不十分であったことも問題だったと思います。 (池田) ■次に、これらの試験結果を教訓に今後の治療の在り方を考えた場合,どのような治療が望ましいかということです。 まず,できるだけ低血糖を起こさせずに,血糖変動を小さくすることが必要です。 既に長期間にわたり高血糖が持続している場合や,動脈硬化が進行している場合には,時間をかけて緩徐な血糖改善を図ることが重要と思われます。 薬剤の使い方としては,インスリンを導入している人には入念な用量調節や指導を行うことが大切です。 また,インスリンやSU薬一辺倒ではなく,食後血糖の過度な上昇を抑制するα-GIを単独,あるいはインスリンやSU薬と併用するなどの工夫が必要です。 なお,食後の高血糖を形成する要因としてインスリン抵抗性もありますので,患者さんによってはα-GIとメトホルミンを初期から併用することも考慮してよいと思います。 いずれにしても,インスリンやSU薬に頼りすぎないことは,体重増加を避ける意味でも大切だと思います。(池田) ■患者さんは血糖値が下がってくると無意識に補食をされますが,積み重なれば体重増加につながります。 したがって,低血糖を起こさない治療戦略は体重増加の抑制という面でも望ましいと言えるでしょう。(寺内) ##心血管イベント発症抑制のエビデンスを持つアカルボースの有用性 #“高血糖の記憶のもと”AGEsの産生をアカルボースが抑制 ■アカルボースはα-GIのなかで唯一,心血管イベント発症抑制効果を持つことが証明されている薬剤です。 そのエビデンスの1つであるMeRIA7は,2型糖尿病患者を対象になされた7つの臨床試験のメタ解析です。 それによりアカルボースは,心筋梗塞ならびにすべての心血管イベントの発症抑制に,プラセボに比して優れていることが明らかとなりました(図5)。(寺内) ■アカルボースによって食後高血糖を改善することが,なぜ心血管イベントの発症抑制につながるかという問題があります。 先ほど「高血糖の記憶」についてお話ししましたが,アカルボースには,この「記憶」をつくる元凶である終末糖化産物(AGEs)を減少させる作用があるのです。 AGEsは,高血糖によって蛋白や脂質,核酸が糖化されて生じる物質であり,きわめて強い組織傷害性を有しています。 その生成過程は初期反応と後期反応に分けられますが,前者は可逆的,後者は不可逆的な反応です(図6)。 したがって,適切な血糖管理がなされれば,アマドリ化合物であるHbA1Cなど初期反応で生じる中間生成物は減少しますが,一度生成されたAGEsは排除できません。これが「高血糖の記憶」の正体だと考えられています。 AGEsは,血管や血球系細胞に存在するAGEs受容体(RAGE)によって認識され,内皮機能障害や炎症を引き起こします(図7)。 しかも,RAGEの発現はAGEsによってup-regulateされることがわかっています。 つまり,AGEsが増加すればRAGEも増加し,両者の反応によっていっそう障害が進むことになるのです。(山岸) ■AGEsが存在する限り,RAGEとの悪循環が続きますね。(寺内) ■一連の反応を引き起こす「還元糖」のほとんどはグルコースですが,生体にはグルコース以外の還元糖も微量ながら存在しています。 その1つであるグリセルアルデヒドは,食後の代謝異常症に伴ってダイナミックに変動し,きわめて短期間でAGEsを生成することがわかっています。 しかも,グリセルアルデヒドに由来するAGEsのRAGEへの結合力は,グルコース由来のAGEsの10倍以上も強力であり,非常に強い障害性を示します。 ところが,2型糖尿病の患者さんにアカルボースを投与すると,グルコース由来の糖化反応の中間生成物であるHbA1Cには有意な変化が見られない(図8左)一方で,グリセルアルデヒド由来のAGEsレベルには有意な低下がもたらされました(図8右)。 この結果より,アカルボースは食後代謝異常症に伴うある種の毒性の強いAGEs産生を抑制し,RAGEとの結合を介した酸化ストレスの産生を抑制することによって,血管保護的に働くのではないかと考えています。(山岸) #アカルボースは酸化ストレスを抑制し血管内皮機能を改善 ■2型糖尿病の患者さんにアカルボースを投与し,投与前後の酸化ストレスマーカー(8-OHdG)の変化を調べた検討です。 その結果,尿中8-OHdG レベルは3か月で約20%も低下しました(p<0.005,対応のあるt検定)。 食後血糖およびHbA1Cレベルも有意に改善されましたが(p<0.001,対応のあるt検定),これらの変化と尿中8-OHdG低下度に有意な相関は見られませんでした。 しかし,21例という少数例での検討ですので,まだ結論を出すことはできません。 (池田) ■実際に酸化ストレスが抑制されるのであれば,血管内皮機能の改善が期待できると思われます。 心血管合併症を有する糖尿病患者さんにアカルボースを6か月投与し,血流依存性血管拡張反応(FMD)の変化を調べてみました。 その結果,8例中7例の方でFMDの有意な改善が認められました(p<0.05,対応のあるt検定)。 また,高感度CRPは有意に低下し(p<0.05,対応のあるt検定),8例全員に血中アディポネクチン値の増加を認めました(p<0.05,対応のあるt検定)。 なお,患者さんの体重は全く変化していませんので,アディポネクチンの上昇は肥満の改善に伴うものではありません。 したがって,やはりアカルボースにより食後代謝異常が改善され,酸化ストレスが抑制されたことが,このような目に見える形で現れたのだと思います。(井手) ■アカルボースは単に食後の高血糖を改善するだけでなく,山岸先生が説明されたように,心血管代謝病の発症経路(図2)のさまざまなポイントに働きかけ,心血管イベントの発症抑制に導くと考えられます。(寺内) 出典 MT pro 2010.4.1(一部改変) 版権 メディカルトリビューン社
by wellfrog4
| 2010-04-23 00:54
| 糖尿病
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