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心血管イベントと食後高血糖管理の関連性については,UKPDS,DECODE,DISなどの大規模臨床試験や疫学調査が行われています。 種々の糖尿病に関する薬剤の中で、食後過血糖改善薬であるアカルボース(商品名:グルコバイ®,グルコバイ®OD錠)による心血管イベント発症抑制効果が,大規模臨床試験やメタ解析により明らかとなっています。 きょうの勉強の内容はスポンサーがついていますのでバイアスがかかっているかも知れません。 いずれにしろ動脈硬化,さらには心血管イベント発症抑制を目的とした血糖管理戦略にアカルボースがどういった役割をはたすのかという内容です。 #動脈硬化予防を目的とした血糖管理戦略 #―アカルボースによる心血管イベント発症抑制効果を考える― 寺内 康夫 氏(司会) 横浜市立大学大学院 分子内分泌・糖尿病内科学 教授 池田 幸雄 氏 高知記念病院糖尿病内科 部長 井手 友美 氏 九州大学大学院循環器内科学 助教 山岸 昌一 氏 久留米大学糖尿病性血管合併症 病態・治療学講座 教授 ##心血管イベントの発症リスクとしての食後高血糖 #糖尿病と診断されていない人にも食後高血糖は潜む ■糖負荷後の高血糖と心血管イベントの関連については,多くのエビデンスから明らかです。 それらのエビデンスをもとに,国際糖尿病連合(IDF)のガイドラインでは「合併症予防のためには,HbA1C,空腹時血糖,食後2時間血糖の3つの評価項目すべてをできる限り安全に正常値に近づけることを目標とすべきである」と明記されました。 しかし,HbA1Cに対する空腹時血糖値と食後血糖値の関与の大きさは一様ではありません。 HbA1Cが高ければ空腹時血糖の関与が,HbA1Cが低ければ食後血糖の関与が大きくなることがMonnierらによって示されています(図1)。 このことを勘案すると,HbA1C 8%以上では食前から既に血糖値が高いことが多いため,まずこれをモニターし,高血糖を呈する場合は是正することが大切です。 一方,空腹時の血糖値がさほど高くないHbA1C 8%未満の人では,食後2時間血糖値をモニターし,まずは180mg/dL未満,最終的には140mg/dL未満を目標に,段階的に是正していけばよいと思います。(池田) ■HbA1Cと空腹時血糖,食後血糖のバランスを考えた血糖管理が効果的と考えられます。 循環器がご専門の井手先生は,心血管イベントを既に発症した患者さんを多く診られているわけですが,糖尿病と心血管イベントの関係についてどのような印象をお持ちですか。(寺内) ■やはり糖尿病のある方は動脈硬化が進行し,予後もよくないというのは,実際の臨床でも実感されます。(井手) ■実際,心血管イベントを発症して入院されている人には,糖尿病の方が非常に多いです。 しかも,それまで糖尿病と診断されていなかった人の半数近くに,糖負荷試験で耐糖能異常が見つかり,糖負荷後2時間血糖値が冠動脈の最小血管径と関連するという報告もありますので,糖尿病と診断される前から食後高血糖をコントロールする必要があると思います。(井手) ■そうした人たちをどのように治療の場に取り込み,心血管イベントの発症を抑制するのかが今後の課題ですね。(寺内) #食後高血糖など一連の「食後代謝異常症」が相まって血管を障害 ■食後高血糖は,血管における主要な酸化ストレス生成系の酵素であるNADPHオキシダーゼの活性化を介して酸化ストレスの亢進をもたらします。 酸化ストレスは血管内皮機能障害を助長するとともに,炎症を促進し,血栓傾向も亢進させます。さらに,アディポネクチン値の低下や中性脂肪値の上昇などを介してインスリン抵抗性を惹起します。 そうした複数の要素が絡み合った結果,血管障害が進行すると考えられています(図2)。 ただし,「食後高血糖」という表現については,私はむしろ「食後の代謝異常症」と表現するほうがよいのではないかと考えています。 なぜなら,血糖値や血清脂質値などの代謝マーカーと血管内皮機能障害のマーカーの関係を見ると,食後の血糖値より中性脂肪値のほうが血管内皮障害マーカーと,よりパラレルに変動しているからです。 また,胃切除後の患者さんは急峻な食後高血糖を呈しますが,心血管イベントを発症するリスクは必ずしも高くありません。 したがって,食後高血糖だけではなく,中性脂肪の上昇など食事に伴う一連の代謝異常が相まって血管障害を進行させると考えるほうが理にかなっています。 心血管イベント発症を抑制するためには,そうした一連の代謝異常を是正することが重要です。(山岸) ■実際,血糖だけでなく脂質や血圧も厳格にコントロールする強化療法と,従来療法の心血管イベント発症抑制効果を比較したSteno-2試験では,目標HbA1C達成率は強化療法群でも約15%と低かったにもかかわらず,イベント発症率は従来療法群の約半分に減少しました。 これは,脂質および血圧管理がほぼ理想的になされたことにあったのではないかと思います(図3)。 つまり,糖尿病には血糖のみならず,血圧や脂質の管理を含めた集約的な治療が重要だと考えられます。(井手) ##心血管イベント発症の抑制を目的とした血糖管理の現状と課題 #「高血糖の記憶」が心血管イベントを進展 ■ここで,2008~09年に相次いで報告されたACCORD,ADVANCE,VADTという3つの大規模試験を振り返り,これらによって浮き彫りにされた現在の糖尿病治療の問題点を考察してみたいと思います。 ご存じの通り,これらの3つの試験はいずれも,厳格な血糖管理による心血管イベント発症抑制効果を主要評価項目として検討したものです。 しかし大方の予想に反し,厳格な血糖管理群に明確な心血管イベント発症抑制効果が認められなかったのみならず,従来通りの血糖管理群に比して死亡が増加するというショッキングな結果となりました。(寺内) ■罹病歴がACCORDで10年,ADVANCEで8年,VADTで11.5年と長いことが関与していると思います。 既に動脈硬化がある程度進行している患者さんでは,動脈硬化があまり進んでいない患者さんに比べ,血糖管理によるベネフィットが小さくなります。 言い換えれば,糖尿病治療は早くから始めなければ,心血管イベントの発症抑制にはつながりにくいわけです。 ACCORDでも,HbA1C 8.0%未満の人や冠動脈疾患の既往のない人に限定すれば,心筋梗塞の発症が厳格な血糖管理によって抑制されていました。 また,最近報告されたVADTのサブ解析でも,動脈硬化が進行していない症例ではイベントの発症抑制が認められています。(山岸) ■罹病期間が血糖管理による心血管イベントの発症抑制効果に影響している機序についてはまだ仮説の域を出ませんが,長期間にわたって高血糖に曝されたことによって生じる「高血糖の記憶(Metabolic Memory)」が血管合併症を進展させるという説が有力です。(山岸) この仮説は「一定以上の期間にわたって高血糖に曝された個体は,血糖コントロールがその後良好になされても,血管合併症の進展を必ずしも抑えることができない」というもので,初めは実験動物の系で認められていました。しかし最近になり,ヒトにおいても同様の現象が生じていることが1型,2型糖尿病患者を対象としたEDIC-DCCTやUKPDS 80という一連の研究から証明されています。 #「高血糖を記憶」する前にできるだけ早い介入が必要 「高血糖の記憶」はEDICとUKPDS 80の結果から,10年以上残ることがうかがえます。 無作為化比較試験DCCTでは6.5年間追跡した結果,網膜症および腎症発症率は従来療法群に比べ強化療法群で有意に抑制されたものの,大血管障害の発症率に差は認められませんでした。 しかし,続いて行われた観察研究EDICでは,ほとんどの患者に強化療法がなされたにもかかわらず,両群間の網膜症,腎症の累積発症率の差は縮まらないうえに,EDIC開始11年後には旧強化療法群で大血管障害の累積発症率が57%低下しました。 すなわち,ひとたび形成された高血糖の記憶という「負の遺産」は,その後も10年以上にわたって維持されると考えられます。(山岸) ■高血糖状態はできるだけ早く改善すべきであることを示唆する成績です。 言い換えれば,早くから強化療法を行って「遺産」を築けば,その利息を将来にわたって受け取ることができると考えられます。 最近報告されたUKPDS 80では,そうした側面を強調し,EDIC-DCCTと同様の現象を「遺産効果(Legacy effect)」という言葉で表現しています。 以上をまとめますと,ACCORDなどの試験で,明確な心血管イベント発症の抑制効果が認められなかった理由の1つには,発症早期に適切な血糖管理がなされないまま約10年が経過し,「高血糖の記憶」が形成されてしまったことにあると考えられます。(山岸) 出典 MT pro 2010.4.1(一部改変) 版権 メディカルトリビューン社
by wellfrog4
| 2010-04-22 00:58
| 糖尿病
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